体外受精
体外受精は、卵巣から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療です。
受精が正常に起こり細胞分裂にて発育した良好胚を体内に移植すると妊娠率がより高くなります。
体外受精による出生児は全世界で800万人を超えています。体外受精では、精子と卵子を体外で確実に受精させるチャンスを与えることができます。
また、技術革新により、妊娠・出産がより高率に可能な良好胚を選んで凍結、移植できるようになってきています。充分な凍結胚が得られれば、次のお子さんを目指して、採卵時の年齢でのより高い妊娠率かつより低い流産率を期待できます。
体外受精以外の不妊治療を漫然と続けると、妊娠時期を遅らせ、出産するチャンスをさらに減らしてしまう危険性があります。
概ね30歳以上の女性で、希望する数のお子さんを、希望する時期に得ることが、年齢・仕事・併存する病気等のために困難になった場合には、精子や卵子の力がなくなって妊娠することができなくなることを避けるため、体外受精による治療を検討して頂きたいと考えます。一度、ぜひご相談ください。
体外受精が必要な方とは?
タイミング療法や人工授精で妊娠に至らなかった方や、体外受精以外での妊娠が困難な方(卵巣予備能低下(AMH、年齢)、卵管閉塞、抗精子抗体陽性、精液所見低下など)が適応となります。
体外受精の流れ
卵巣から卵子を取り出す
(採卵)
採卵を行うには、数個~10個前後の成熟卵を得るべく、事前に卵巣内に発育した卵胞(卵子の入った袋)を作る必要があります。発育した卵胞を作るために、排卵誘発剤(内服、注射)を使用します。薬を使って卵巣を刺激し発育した卵胞を作ることを「卵巣刺激」と言い、それには様々な方法(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、黄体フィードバック法(PPOS)、ホルモン調節法、低刺激法(クロミッド、レトロゾール内服)など)があります。それ以外に、自然周期にて1つの卵胞発育を待つ方法もあります。
刺激に対する卵巣の反応は個人差が大きいため、採血でのAMHの値や、ホルモン検査検査、過去の治療法などを参考にして、患者さん一人ひとりに合った刺激方法を選択します。
採卵当日は、経腟エコーで観察しながら腟から卵胞を穿刺し、卵胞液とともに卵子を吸引して行います。採卵時は、もちろん麻酔(局所麻酔、静脈麻酔)を行うことができます。
体外で卵子と精子を受精させる
(媒精)
体外受精(媒精):採卵にて回収した卵子に精子をふりかけます。より自然に近い授精方法で、精子の状態が良い場合に行います。
顕微授精(ICSI):卵子の中に直接にひとつの精子を注入して受精させる方法で、卵子と精子が自然に受精できない受精障害の場合や、精子の状態が不良の場合に行われます。
Piezo-ICSI
従来のICSIでは、先端の鋭いガラス針を用いて卵子の透明帯を押し破り、卵細胞膜を吸引して破膜し細胞質内に精子を注入するため、卵子に対するダメージが大きいことが懸念されていました。Piezo-ICSIは、先端が平らな針を使用し、機械の微細な振動(ピエゾパルス)によって透明帯や卵細胞膜に穴を開け、吸引せずに精子を注入することができるため、卵子へのダメージも少なく、より負荷の少ないICSIを行うことができます。
レスキュー顕微授精:受精障害を回避するため、体外受精から4〜5時間後に卵子の受精の兆候を確認し、精子の進入が確認できない場合に行う追加の顕微授精です。
受精卵を発育させる
(培養)
受精卵を培養する培養庫(インキュベーター)は、温度やガス濃度が一定に保たれ、子宮内と同じような環境になっており、3日〜6日程 培養を行ないます。
分割期胚評価:割球数、フラグメントの量、割球の均一性の組み合わせで評価します。割球数は順調に分割が進んでいるかどうかで、フラグメントが少なく、割球の大きさが均一であれば評価がよいとされます。
胚盤胞評価:内細胞塊(胎児になる細胞)、栄養外胚葉(胎盤になる細胞)の状態で評価します。内細胞塊は細胞が密で塊を形成しており、栄養外胚葉は均一で細胞数が多いものが評価がよいとされます。
胚盤胞まで到達した受精卵の着床率は、通常の4~8細胞期の移植に比べ高いことは当然ですが、培養した全ての胚が胚盤胞になるわけではありません。
タイムラプスインキュベーターGeri®
受精卵(胚)を育てる培養器をインキュベーターといいます。女性の体内(卵管)に近い環境になるように、温度37.0℃、二酸化炭素6%、酸素5%で一定に保たれています。
従来のインキュベーターは、外に取り出して受精卵(胚)の成長を観察しなければならず、外気にさらされることによる光の暴露、温度変化、pH変化など、負担が大きいものでした。
タイムラプスインキュベーターGeri®は、培養している受精卵(胚)を一定時間ごとにカメラで撮影することで、受精から分割して成長していく様子をモニターで動画のように観察できます。インキュベーターの外に取り出すことが減るため、受精卵(胚)への負担が軽減されます。
胚凍結(新鮮胚移植の場合は不要)
受精卵を培養する培養庫(インキュベーター)は、温度やガス濃度が一定に保たれ、子宮内と同じような環境になっており、3日〜6日程 培養を行ないます。
分割期胚評価:割球数、フラグメントの量、割球の均一性の組み合わせで評価します。割球数は順調に分割が進んでいるかどうかで、フラグメントが少なく、割球の大きさが均一であれば評価がよいとされます。
胚盤胞評価:内細胞塊(胎児になる細胞)、栄養外胚葉(胎盤になる細胞)の状態で評価します。内細胞塊は細胞が密で塊を形成しており、栄養外胚葉は均一で細胞数が多いものが評価がよいとされます。
胚盤胞まで到達した受精卵の着床率は、通常の4~8細胞期の移植に比べ高い事は当然ですが、培養した全ての胚が胚盤胞になるわけではありません。
胚移植
胚を子宮に戻すことを胚移植といいます。使用する胚は、採卵から3日目まで培養した初期胚もしくは、採卵から5-7日目まで発育させた胚盤胞を移植することができます。移植する胚は、胚移植が初めての方は、1つの受精卵を移植します。原則、移植する胚は1つですが、これまでの移植経過により複数個の胚を移植した場合は、多胎妊娠になる確率が上昇します。
日本において、融解胚移植による治療周期が増加しており、2019年には新鮮胚移植41,831周期に対して、融解胚移植210,656周期となっています。新鮮胚移植の妊娠率が23.1%に対して、融解胚移植の妊娠率は35.4%と良いのが特長です。近年では、凍結保存技術の向上により、採卵周期に移植(新鮮胚移植)をせず全胚凍結を行い別の周期に融解胚移植が行われるようになっています。その理由は、前述の融解胚移植の妊娠率が高いことと卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の予防の他にも、子宮外妊娠の予防や周産期リスク(分娩前の出血、早産、低出生体重児、周産期死亡)の低下につながるというデータがあるためです。よって、当院では凍結融解胚移植を主に行っております。
凍結融解胚移植の方法は2つあります。自然に排卵を起こして戻す自然周期と、排卵を起こさずに卵胞ホルモン(エストロゲン製剤)を投与することで子宮内膜を厚くしながら行うホルモン補充周期があります。
ホルモン補充周期が適応となる場合は、移植日をあらかじめ決めたい方、無排卵の方、自然周期で子宮内膜が薄い方などです。 デメリットは、使用するホルモン製剤が自然周期より増えることです。
排卵がしっかり起こる方は自然周期にて移植も可能ですが、受診回数が増えることがデメリットです。
どちらの移植方法を選んで頂いたとしても、受診の際に超音波検査と各ホルモン採血(E2,P,LHなど)を行い、最適な状態で胚移植をしていただけるようにしております。